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<ほーねっとのコラム− vol 8>

『情熱だけでは大会は開けない』

Vol.7では「夏季」オリンピックとFIFAワールドカップという世界の2大スポーツ大会の開催を巡る、都市の思惑について書かせていただきました。Vol.6がトリノ「冬季」大会の時期だったことも考えると、もしかしたら意外に思われた方もいらっしゃるかもしれませんね。

そうなんです。前回コラムで触れなかった大会が、冬季オリンピック、そしてパラリンピックです。現代オリンピックでは、開催条件に「オリンピック終了後同一の会場を用いてパラリンピック大会を開催すること」というものが含まれており、すでにIPCとIOCは大会開催に関して密接に連携をしているわけです。ですので、ひとまずパラリンピック大会はオリンピックとセット、ということにして今回は話を進めます。

さて、前回も軽く触れましたが夏季オリンピックを開催したいという国は後を絶ちません。急激に成長を遂げた国、世界の列強に認められたい国・・・国威を示すという政治の道具、そして国民を勇気付ける仕掛けとして、近代オリンピックはその影の性格をずっと保持しています。

特に中近東諸国はその資金力を背景に各種競技の大規模大会を招致し、実績を重ねています。競技インフラは最新装備を惜しげもなく投入できるし、必要であれば選手さえ移民させることも可能なのです。中近東はもちろん、赤道直下のインドや北アフリカの国々も急速な経済発展を背景に開催を望んでいます。

しかし、どうにもできないものもあります。それは気候。どんなに設備が良くても、そこが選手が競技をすることが困難なほど暑かったり、日差しが強くては試合が成り立たない場合もあります。

特にオリンピックが「世界最高」の大会とされるのは、その開催規模のせいばかりとは言えないでしょう。競技者にとって最高の舞台であること、それは最高の競技で最高の結果を出し、世界中の人に観てもらうこと、そうした条件がオリンピックがアスリート達の目指す頂点たらしめているのではないでしょうか。

どんなにインフラを整備しても、成績に影響するような気候では選手のコンディション調整が大変です。すべての競技を屋内で行うという方法もありますが、まさかマラソンコースを屋内にするというわけにもいきませんよね。もっとも、赤道で暮らす地域の選手にとっては絶好のチャンスかもしれませんし、逆に冬の日本の気候はアフリカ出身の選手にとっては時に逆風になるケースもありますから、一概には言えないのかもしれませんが。

この気候という問題がさらに大きくなるのが冬季大会です。氷については屋内リンクという方法もとることが可能ですが、雪の競技、スキーやスノーボードはゲレンデがなければなりません。その上ジャンプ競技のシャンツェは斜度や距離、さらに風向きまで関係してきます。いくらオリンピックが開催したくても、こうした環境の揃わない国では開催できないわけで、この点が夏季大会との大きな違いです。

冬季オリンピックはそれでも、オリンピックですので世界のウィンターリゾートが開催を望んでいます。特に長期滞在型のスキーリゾートの場合、ゲレンデは数多く、新しく作る必要もありませんから。しかし、スケートリンクとなると一筋縄ではいきません。

長野オリンピックの場合を例に取ると、長野市内にM-Wave、アクアウィング、ホワイトリング、ビックハットの4リンクが建設されました。ビックハットとアクアウィングがアイスホッケー、ホワイトリングがフィギュアスケートとショートトラック、そしてスピードスケートのM-Wave。しかし、長野市及び北信地区はスキーの方がはるかに競技人口の多い地域となり、大会終了後にはオーバーリンク状態となります。そこでアクアウィングは現在は国際公認の50mプールとして、ホワイトリングは体育館として転用されているという状況です。

さらにはカーリング競技用のリンク、そしてボブスレー・リュージュ競技の専用コースも冬季オリンピックには必要となります。これだけの体制を整えられる国・都市となるとだいぶ限られてしまっている状況といえます。

実際、ボブスレーコースや国際格式のジャンプ場は日本でも冬季オリンピックの開催された札幌と長野にしかありません。特にボブスレーの競技環境は長野のスパイラルだけになってしまいました(札幌大会のコースはすでに廃止)。

ボブスレーなどのそり競技は、専用の道具やコースを使い、また特殊な競技形態であることから日本に限らず非常に競技人口が少ないのが現状です。競技時の時速は120km/h以上と言いますから、安全性の面から仮設施設というわけにもいかず、またオリンピックですから高記録を期待する上でも、立派な施設を用意しないわけにはいきません。従ってせっかく作った会場を維持することは費用面で難しく、かといって廃止してしまえば競技そのものが絶滅してしまうということもあり、スパイラルを運営する長野市はその存在に苦慮しているというのが現状のようです。

ただ、こうしたマイナー競技も取り入れられているのがオリンピックならではと言えるかもしれません。その競技の選手が地元の大会で活躍してくれることで競技への関心が高まることもあります。スケルトンの越選手の孤軍奮闘ぶりは良く知られるところですし、札幌オリンピックでのJ.リン選手やトリノでの荒川選手の活躍によるフィギュアスケート、あるいはチーム青森の活躍で一躍ブームとなっているカーリングは好例かもしれません。

と、前回触れなかった冬季オリンピックの話題を書き綴るうちに今回もずいぶんと字数がかさんでしまいました。ここ2回ほど、国際大会を開催することについて考えてみました。施設の問題や気候の問題に悩まされる大きな大会、それは何も国際大会に限ったことではありません。

日本国内では最大級のスポーツの祭典、国民体育大会、国体です。各都道府県が持ち回りで開催し、今年で62回。メーン大会となる夏・秋大会を開催するのは秋田県ですが、今年は冬季のスキー競技も秋田で開催、スケート競技は群馬で1月、2月に開催されました。

この冬季国体と呼ばれるスキー、そしてスケート大会の開催が困難を極めているのです。例年、各競技会の閉会式では次回開催地の紹介がされますが、来年のスキー競技会会場が決まらず、再来年のスケート競技会も未定となっているのです。

次のコラムでは、冬季に限らぬ、この国体という巨大なイベントと、国体が核となる日本のスポーツ界の現実について考えてみたいと思います。

それではまた・・・

ほーねっと

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