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<ほーねっとのコラム− vol 7>

『どうして都市は、夏季オリンピックを開催するのか』

早いもので、前回コラムを書いてからなんと1年ものブランクが!本当にご無沙汰をしてしまいまして、申し訳ありません。

トリノの興奮、まさにその言葉通りにオリンピック、そしてパラリンピックを満喫させていただきました。そして6月のFIFAワールドカップ、ハンカチ王子VSマー君で盛り上がった甲子園・・・。2006年もいろいろなスポーツシーンを楽しむことができました。

ところで1年ぶりの今回のコラムは、その「大会」というものについて考えていきたいと思います。

2007年、日本では大阪で世界陸上が開催されます。以前のコラムでもご紹介した通り、近代日本のスポーツ界において陸上競技というのはもっとも歴史ある競技の一つであり、古くは君原、円谷、そして現在は女子マラソンのトップレベルアスリートはすべて世界陸上、そして2008年の北京オリンピックの金メダル候補とさえ言われています。

北京や1988年のソウルという会場は、まさにオリンピックを開催することで都市の近代化、住民の近代化(つまりは西洋化)を進め、先進国の仲間入りをしようという国のテーマがあります。その姿は、第二次世界大戦で敗戦国のレッテルを貼られたところから立ち直り、経済大国として欧米に再び肩を並べたかつての日本の象徴であった、1964年の東京オリンピックの成功以来の、後進地域が国際化をアピールの手法でもあります。今後は、オイルマネーで潤う中近東や、東南アジア、そしてインドやアフリカも候補地として名乗りをあげてくることと思います。

その2008年のオリンピックもこれからなわけですが、さらに2回後、2016年のオリンピック開催地として日本の東京が立候補していることは皆さんもご存知の通り。2005年時点の国内誘致競争では、福岡も立候補していましたね。

東京は1964年のオリンピック開催地であり、その時の国をあげての整備によって、今日の東京が形成されています。「国立」こと国立霞ヶ丘競技場、代々木第一・第二体育館、駒沢オリンピック公園などの競技施設はもちろん、新幹線も首都高速も東京モノレールも、すべては東京オリンピックを照準に整備が進められました。この辺のハコ物施策は、サッカーの回のビッグスワンなどでも触れましたね。

しかし、その東京オリンピックから早40数年。日本最大のスタジアムだった国立競技場は施設の老朽化が進んでいます。世界陸上や「スーパー陸上」のメーン会場であったのも過去の話、今や国際大会の公式会場としての認定が降りず、このままでは、日本の首都で国際大会を開催することは困難。しかし、これから代替施設を建築するのは容易ではありません。わざわざ新しい施設を作らなくても、横浜の日産スタジアムや埼玉のさいたまスタジアムがあり、実際に2002年のワールドカップでも国立競技場は試合で使われることがありませんでした。

そこで東京都が考え出したのが、オリンピックを再び招致することで国家予算を引き出すというウルトラCだったのです。幸い都内には、お台場地区や移転予定の築地市場など、東京港近辺に広大な都有地が在りますし 国立競技場を中心とする明治神宮外苑地区も再構築可能です。ついで、スポーツインフラ以外の都市改造も一挙に進めようというわけです。

これは何も、東京だけが考えていたわけではなく、福岡も、そしてそのほかの例外の地域も同様の考えをもっていますし、日本に限らず「成熟した都市・国」が夏季オリンピックを開催するということは、その経済効果を期待していることに他なりません。

実際、2012年にオリンピックを開催するロンドンですが、これで3回目の開催となります。しかし前回の開催は1948年。すでに60年以上の時間が流れており、次回の開催のために大規模な再開発を予定しています。

一方でIOCの方向性としては、あまり新規に大規模な開発を行う事は費用面でも、そして環境面でもよろしくないということで何らかの既存施設をできるだけ生かす方向でプランニングすることを求めています。その例が1984年のロサンジェルス大会。LAもこの時2度目の開催でしたが、メーンスタジアムは1932年大会の際に建築されたものを改装し、例えば水泳会場はUCLAのプールとして新築され、スタンドを撤去され現在も使われています。この流れを元に考えると、今後のオリンピックは過去の開催地のほうが有利とも考えられており、実際に2016年の開催候補地としては先のアジア・中近東の他、ロサンジェルスも有力候補としてあげられますし、2012年でロンドンと最後まで開催地を争ったのは同じく過去2回の開催実績を持つパリでした。

と、ここまで夏季オリンピック開催地の話題を一通りしましたが、スポーツの国際大会は別にオリンピックとFIFAワールドカップばかりではありません。大学生の祭典・ユニバーシアードも各種競技が集まる大イベントとして、これまで日本でも数回開催されてきましたし、冒頭の世界陸上のような競技別の世界大会もあります。それでも、世界の都市がオリンピックとFIFAワールドカップの開催を渇望する理由、それはその開催規模と世界の注目度の違いに他なりません。

FIFAワールドカップは地区予選を勝ち残ったわずか30数国の代表しか出場することができません。しかし、その大会は世界中で放映され、本当に多くの人が大会を注目します。

一方、夏季オリンピックはほぼ世界中の国・地域が参加し、回を重ねるごとに規模が大きくなっています。こちらも世界中で放映される事で、世界の人々に大きな印象を残すことができます。

その結果、開催地は世界に名を知られる事となります。観光やビジネスで、世界中の人に都市を知ってもらえる上、それほど注目される大会ですからインフラの整備なくして招致は実現できません。陸上競技も欧米からアフリカまで、本当に多くの国の選手団がやってきますが夏季オリンピックとFIFAワールドカップと比べれば小さなものです。おまけに、トラックとフィールド、それを観戦するスタンドと、42.195kmのマラソンコースを整備すれば、競技インフラは成立するのです。今回の大阪世界陸上の会場である長居陸上競技場も、Jリーグのホームスタジアムとしてすでにある程度の改修もされており、設備整備ではあまり大きな費用をかけずに済んでいます。

単一競技の世界大会を開催することも、開催都市にとっては大きな実績でありますし、ユニバーシアードを開催した神戸、福岡でも、同大会を機に競技場整備が行われた経緯もあります。しかし、その予算規模はやはり、FIFAワールドカップ、そしてオリンピックには及ばないのが現実です。

開催にあたっては、IOCが憂慮する環境問題をはじめ、北京で問題となった地域住民の強制立ち退きなど、多くの課題が都市に残される事もまた事実です。大会開催で都市は潤いもしますが、同時に失う物も少なくはないのかもしれません。

ともかく、大会というものは競技インフラがあって成立するものですし、開催をしてくれる都市(国・自治体、競技団体)があり、その大会の運営をする人々がいて、出場する選手がいて成立するものです。我々は参加する側なり、観る側なりいろいろの立場があると思いますが、そうした営みを感謝することも、時には必要なのかなとこのコラムを書きながら感じました。。

久々のコラムで一気にここまで書き上げました。次回は最後に触れた開催する側について、もう少し考えることができたら・・・と思っています。

ほーねっと

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