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<ほーねっとのコラム− vol 3>

VOL.3 プロ野球とオーナー企業(1)

今年は「プロ野球改革元年」ということで日本プロ野球界50年ぶりの新球団・楽天ゴールデンイーグルスの誕生、そして新生福岡ソフトバンクホークスが開幕から話題となっています。そして、2リーグ分裂後はじめての試みとしてリーグ間の交流戦が組まれ、予想以上の人気を博しましたね。

気がつけばまもなくオールスターという時期になってしまい、またもコラムの更新に時間がかかってしまいました。何とかオールスター前にアップできればとピッチをあげているところです。

日本のプロ野球は戦前からスタートした数少ないプロ競技ですが、太平洋戦争の間には興行を中止したのはもとより、多くの選手が出征し命を落としています。従って、戦後の興行再開にあたり非常に苦労が多かったと聞きます。

同時に、各地の戦後復興のシンボルとして、地域一体となった招致や設立運動も盛んだったといいます。その典型といえるのは、やはり広島東洋カープではないでしょうか。

チームの設立や運営、そして平和記念公園横の広島市民球場の建設費などは「カープ鍋」という募金鍋を設置して集めた市民の浄財で賄われました。自らも原爆の後遺症に悩んだ広島市民が、それでも欲したプロ野球球団。赤ヘル党の熱狂はこうした市民自身の情熱が今も残っているからなのでしょうね(広島東洋カープ設立の経緯については、NHKの「プロジェクトX」で紹介されましたね、最近はいろいろと騒がれている同番組ですが、本件についてはそちらをごらん頂く事をおすすめします)。

広島をはじめ、日本の各地でこうした新球団設立に沸いた昭和20年代でしたが、伝統ある球団とそうではない球団の差は当時も今も変わりがありません。戦後設立された球団のいくつかは数年で解散したり売却されたりと苦労が絶えなかったといいます。また、オーナー企業もその時代時代に勢いがあった会社でしたが、時代の流れで移り変わっていったのでした。

まずは伝統的なオーナー企業業種である新聞社と鉄道会社。自らの球団を大きくとりあげ、その情報量で顧客を獲得していった読売新聞社。沿線の価値を高めるとともに生活のすべてを提供し、同時に交通機関として自社交通網を使ってもらう阪急電鉄や阪神電鉄。この大きなビジネスモデルを見習い、次々と大企業が後に続きました。中日、毎日、近鉄、西鉄、東急といったチームです。

それから、プロ野球は娯楽ということで、映画会社も多数参加していました。現在の総合エンタテインメント企業を標榜する事業の走りといえますね。大映、松竹、そして戦後に企業買収や合併でできあがった東映。阪急グループの系列には東宝もありますね。しかし、球団を持った後にサービス業の中でも斜陽と言われ、チームを手放したばかりでなく倒産してしまったり、スタジオを閉鎖・売却するようになるとはその時代、誰も思わなかったでしょうね。

後に映画会社の地位を奪う事になる放送局、特にテレビ局のフジテレビやTBSがオーナーとなり、そして今次世代のメディアとされるインターネット業界から楽天やソフトバンクが進出しているというのは、娯楽産業の隆盛を表す縮図といえるのかもしれません。

映画会社とテレビやネット企業の大きな違いは、球団や選手を事業の中でどのように活用するかのビジョンがあるかないか、というところにあるといえます。映画会社にとっては、系列の劇場で演じられる演劇やレビューと同一の興行というビジネス出しかなかったのに対し、放送局は球場だけではなく電波によりその様子を生中継したり、ニュースとして伝えるという商材として活用することができました。さらにネット企業では、インターネットを活用した配信ばかりでなく、試合や選手とリンクしたeコマースへの応用という、さらなるビジネスモデルを試行しているのです。

面白いことに、戦前・戦後を見回してみても製造業の参入がほとんどないことに気がつきます。前回も述べましたが、製造業、特に日本経済の牽引車であった鉄鋼や機械・自動車などのメーカーは、今日の社会人野球でも中心をなすチームを持っているのですが、直接プロ野球経営に参入した企業はわずか。それもどういうわけか食品会社が多いのです。

現在もチームを持ち、北海道という新開地で奮闘する日本ハム。健康食品メーカーとして全国に「ヤクルトおばさん」の販売員ネットワークを持つヤクルト本社。日本はもちろん、韓国でも球団を保有するロッテ。そして現在では撤退してしまっていますが、日本の水産業を代表する企業である大洋漁業(現マルハ)。

かつて、ヤクルトが発売したスポーツドリンク「ストライプ」の広告にはヤクルトの選手がユニフォーム姿で登場しましたし、神奈川県を中心とする「ベイスターズマート」という食品スーパーチェーンもあります(かつてはホエールズマート)。

ここまで見てきた業種すべてに共通する項目があることに気がつきます。それは、いまどきでいう「BtoC」のビジネスモデルを取った企業なのです。メディアも鉄道も、そして食品も、スーパーマーケットも、そのすべてがコンシューマーへの物品やサービスを提供している企業ばかりなのです。

それに対して、昨年も話題となったオリックスは少々事情が異なります。企業向けのリースや貸付業務を行うノンバンクであるオリックス。ちょうどオリエントリースから社名変更を準備中でした。宮内社長(現・会長)は阪急からの買収当時「企業名と企業イメージのPR」と言い切っていました。「オリエント」というと、当時は同じノンバンクでコンシューマー向けのノンバンク、当時でいう信販会社にオリエントファイナンスという会社もあり(現在のオリコ)双方が混同されていたという事情を抱えていたのです。コーポレート・アイデンティティ(CI)が流行したこの時代、プロ野球に限らず多くのスポーツのスポンサーとしてCIを導入した企業が自社の認知度アップを目的としたスポンサード活動を実施していたのでした。

今シーズン新規参入したソフトバンクと楽天も事情は同じです。このコラムを読んで頂いているような、PCを活用されている方々にはすっかりおなじみの両社ですが、PCはおろか携帯電話すら持たないような方々には、何の会社だかわからないというのが一般的な認識です。あのライブドア騒動の時に読売新聞社の渡辺会長が「僕の知らないような会社がプロ野球に来てもらっては困る」といったことは本当に話題になりましたが、彼らのような世代の一般の方にとって、自分の知らない会社というのは、すなわち信用できない、胡散臭いという認識であるにほかならないのです。

企業としてはいずれも伝統的な企業に追いつき、追い越せとばかり急拡大しているIT業界とはいえ、やはり現状のITユーザだけと商売をしているのではおのずから限界が見えてきます。しかし、プロ野球のオーナー企業となれば、何をやっているかはともかく、日々のスポーツ欄やスポーツニュースで自社の名前が連呼されるわけですから認知度が高まります。

オリックスは今や企業金融の枠から飛び越え不動産やレンタカーなどのコンシューマービジネスに参入するにあたり、あの「オリックス球団」のオリックスという安心感がプラスに働いたわけです。また、南海からホークスを買収したダイエーが自らの創業の地である大阪を離れ福岡にフランチャイズを移転させたのは、もちろん九州のプロ野球ファンの熱心な誘致運動のおかげでもありますし、大阪球場の再開発計画の影響もありましたが、九州のスーパーチェーンだったユニードやダイナハの買収により本格的に九州への進出を図る時期だったダイエーにとっては、地域のスーパーマーケットとして認知を得る足がかりにしたいという思惑もあったようです。

このように、多くの場合プロ野球チームを傘下に持つ企業の投資理由は、コンシューマーに対する認知度の向上やチームと連携することによる顧客獲得やビジネス拡大にあると言って良いでしょう。実業団野球が自社の社員の福利厚生や企業内部の融和や活性化といった内部効果を生み出すことをねらいとしていたのとは対象的なのです。それゆえ、広告宣伝費という考え方が成立しているのです。

少し長くなりましたので、次のコラムで今はなき球団、そしてオーナーについて触れてみましょう。それでは。

ほーねっと

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