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<ほーねっとのコラム− vol 2>

VOL.2 日本企業にとってのスポーツ

日本の近代スポーツの歴史を振りかえってきた本コラム。学校とスポーツというテーマを終わらせ、次は企業だなと資料収集をはじめた昨年4月以降、困ったことに状況が本当にめまぐるしく変わり、結局9ヶ月ものブランクをあけてしまうことになりました。本当にお待たせして、申し訳ありませんでした。

さて、私の筆を止めた最大の理由は、日本国内において最もファン人口の多いとされる競技、プロ野球で続いたゴタゴタでした。開幕当初、大阪近鉄バファローズが打ち出した、チーム命名件を売却する「ネーミングライツ」を球界が拒否する出来事がありました。ついで6月の大阪近鉄とオリックスブルーウェーブの合併発表、そして一部のオーナーを中心とする1リーグ構想、新規参入拒否問題、さらに日本球界初となるストライキの実施。

12月になると楽天による新球団のパ・リーグ加盟とダイエーのチーム売却。年が明けキャンプ・インした現在でも、西武ライオンズの来シーズン売却構想・・・おまけに、裏金を用いたスカウティング活動に絡み辞任するオーナーが続発。。。

これほどまでにひとつの競技が試合以外で盛り上がった1年はなかったのではないでしょうか。

実は、ネーミングライツ自体は球場の名称においてかなりの実績をもちます。オリックスの本拠地・神戸グリーンスタジアムは「Yahoo!!BBスタジアム」に、野球場ではありませんがサッカーの東京スタジアムも「味の素スタ^ジアム」と名称を変更しており、隣接する国道の位置標識も現在では「味の素スタジアム」と表記されています。新規参入した楽天ゴールデンイーグルスの仙台球場、福岡ソフトバンクホークスの本拠地である福岡ドーム、さらには経営危機の伝えられる西武鉄道・コクドグループが保有する西武ドームも今シーズンからスポンサー名で呼ばれるようになります。代表的な例ではイチロー選手の在籍するシアトル・マリナーズの本拠地「セーフコ・フィールド」もスポンサー企業の名からつけられています。

実は、日本でもチーム名のネーミングライツについても、すでにプロ野球の2軍で実施された実績があります。オリックスの2軍が四国に本社を持つ中堅デベロッパー・穴吹工務店にその権利を譲り、同社のマンションシリーズ名である「サーパス」を名乗っていましたし、今期から西武の2軍も名称を変更します。

このように決してネーミングライツは、経済行為としてはそれほど珍しくない状況にあるにもかかわらず、1軍ではそれを認める事をよしとしなかったプロ野球。そして、それを認めなかったのはファンでも選手でもコミッショナーでもなく、一部のチームのオーナー達だったと言われます。

そもそも、日本のスポーツ界、とくに球界が海外と比べ異様であるとされる最大の点が、このチーム呼称なのです。同一地区に複数のチームがある東京の例もありますから地名はともかく、「タイガース」「ブルーウェーブ」ではなく「阪神」「オリックス」という保有企業名で呼ばれるということです。

例外として「巨人」「広島」がありますが、これは巨人が日本でもっともファンの多い球団であり、読売グループが保有する事は誰もが知る事実であること、広島の場合は市民も出資者として多数参加する市民球団の側面が強いという理由です。

これが社員が選手として活動するアマチュアの社会人野球であるならまだしも、ストライキ騒動でも問題になったようにプロ野球選手は球団という組織と期間を区切り契約する個人事業主です。球団は自社の事業である野球の試合を行うためのプレイヤーと個別の契約を行い、その選手が働く、つまりプレイすることにより観客が集まる、そしてテレビ等の放送権利を販売する、グッズを販売するといったことによって成り立たせるべき事業なのです。また、ユニフォームに親会社社を含めた協賛企業のロゴを入れメディア露出させることや、球場に掲げられた広告も球団にとっての大きな収益源となります。

しかし、現実には今回明らかになったとおり、日本のプロ野球12球団のうちで黒字を確保できているのは巨人と阪神の古参かつ人気の2球団と、皮肉なことに慢性的な資金不足と絶対的親会社を持たないがゆえに身の丈にあった経営をしている広島だけという現実が見えてきました。残る9球団は親会社の広告宣伝を業務委託されている関連会社として赤字を補填されて何とか存続しているのが現実なのでした。ダイエーからチームを引き継ぐソフトバンクグループですら、チーム名に自社の名を冠することになっている状況です。そんな状況のリーグですから、経営上の問題もあり、チームの愛称ではなくて親会社の呼称をメディアで報じてもらわないといけない状況なのです。

同じプロスポーツであるサッカーのJリーグは発足当初から地域密着を打ち出し、チーム呼称に企業名を入れることを良しとしてきませんでした。そのためあるチームはかつて現在のJ1のチームと天皇杯を競う実力があったにもかかわらず現在までJリーグに参戦せずJFLで活動を続けていますし、また東京ヴェルディのようにその方針に反発した読売新聞社から系列ではあるものの別会社である日本テレビ放送網に親会社が変わるという事態もありました。

海外に目を転じますと、シアトルマリナーズの筆頭株主は任天堂ですが、買収以来チームの経営には口を出さず、また日本企業の子会社であることよりもシアトルの共有資産として控えめな支援を行っています。せいぜい、イチロー選手や長谷川投手、かつての佐々木投手など優秀な日本人選手と契約するという事にオーナーの意思、またはオーナーへの配慮が働くか、あるいは日本でのテレビ中継を視野に入れ、バックネットに日本語の自社製品の広告を入れた事くらいでしょうか。

ユニフォームにオーナー企業のロゴが入った例も多数ありますが、マリナーズのユニフォームのどこにもマリオもドンキーコングも、Nintendoのロゴもありません。

欧州では野球は盛んではなくその分サッカーやバレーボールのプロリーグがあります。それらの多くは単独の企業ではなく代表的な会社を中心に複数の地域の企業や自治体、そして多くの市民の共同出資によって成り立つクラブを母体としており、ジュニアチームやレディースチーム、競技の指導や交流という形で地域社会に密着した活動を行っています。

例えばオランダのアイントフォーヘンという街にはトヨタカップにも出場した名門のPSVアイントフォーヘンというサッカーチームがあります。この街には世界的な電機メーカーであるフィリップスの本社があり、ユニフォ[ムにも同社のロゴが大きく描かれています。当然の事ながらフィリップスはPSVの筆頭出資者ですが、チームはPSV、あるいはアイントフォーヘンと呼ばれ「フィリップス」とは呼びません。

日本においてもチームと地域の密着という事例は少なくありませんでした。労働集約型の重工業地域では、地域の住民の過半が地域の大工場とその関連企業に勤務していました。大工場は行政への貢献を含め地域社会の中核でありました。若い労働力の余暇の過ごし方として、また同時に体力作りの場としてスポーツチームが作られ、積極的に活動をしていました。

例えば新日鉄釜石のラグビー、古河電工日光のアイスホッケー、大昭和製紙白老や新日鉄堺の野球、日紡貝塚のバレーボール・・・

こうしたチームは修練の場として実業団の大会に出場し全国のトップレベルチームとして活躍してきました。チームの活躍は社内を活性化させるばかりでなく、社に関係のある地元全体にとっても大きな出来事であり、共通の話題となりました。若者は地域の働き口である大工場やその関連会社に誇りを持ち、地域を愛し地域に根付く。こうした効果は行政にとっても地域に安定と発展をもたらすこととなり、地域のシンボルとして一体となった応援がなされていたのでした。都市対抗野球大会は往時の名残であり、現在も社内ばかりではない、地域からの大応援団が東京ドームに駆けつける姿が見られます。

しかし、オイルショック以降の日本の経済構造の変化は国内での工業生産縮小、あるいは企業そのものの競争力を奪うことになりました。先ほど挙げた企業が支えてきたチームは現在ではすべて休止しており、OBや地域が中心となったクラブチームとして活動をしているものも少なくありません。また、工場そのものが規模を縮小したり、閉鎖されている状況であり、それに伴い関連企業の移転や倒産も相次ぎ、地域そのものが斜陽しているという状況になっているのです。そんな現状ですから行政も市民もクラブチームを支えていくことは困難であり、多くが運営にも苦慮するか、チームの弱体化を招いている状況です。

こうした状況で社会人野球をはじめとする実業団スポーツに参加する母体の顔ぶれは大きく変わりました。重工業から食品、流通、サービス、そしてIT。現在では企業の宣伝であったり、社会文化貢献活動、いわゆるメセナの側面が強くなっているのが現状です。そして、このような形態のスポーツチームは自社の景気動向に左右されやすく、チームの休廃部が相次いでいます。

最近では既存のチームの指導者と選手をセットで移籍させるという形や、選手個人と契約をしてその練習やマネジメントはアスリートクラブへ委託するという形になってきており、選手は契約社員として事実上のプロ選手として活動するケースが増えてきました。同じ会社の一員とはいえ同僚というわけではないこともあり、社内の活性化という点の効果はほとんど期待されなくなっています。

結局のところ、学生・生徒を除く競技スポーツはプロ化傾向を強めており、そのほとんどが企業の宣伝媒体として活動する事の見返りとなっているのが現状です。このような経済モデルはまさに日本のプロ野球を範としているわけで、以前にも触れましたがもはやアマチュアとプロの違いというものはなくなってしまっているという状況です。

もちろんアスリートは自分のために競技をしているわけですが、企業との契約による給与や競技に集中するための環境の提供を受ける見返りに自らが宣伝塔として活躍することを求められています。この国の多くのアスリートは、企業の経済活動に組み込まれ、企業のためにスポーツという職業をしているように思えてなりません。やはり、企業スポーツは企業のため、、、なんでしょうか。そしてスポーツは誰のため、そして誰のものなのでしょうか。

次回のコラムでは、その辺について改めてまた考えてみたいと思います。今回ほどのタイムラグはないと思っていますが・・・気長にお待ちください。

ほーねっと

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